当院受診の2ヶ月前より右手背の浮腫、1ヶ月前より全身倦怠感を自覚。浮腫の悪化があり、近医を受診しセフカペンの内服を処方された。その約2週間後に両肘〜前腕部の対称性の腫脹と熱感、脱力、皮疹、顔面浮腫を自覚するようになった。さらに軽度の労作時の呼吸困難のため近医を再度受診し,心不全の疑いで循環器科に紹介。
<家族歴>姉が関節リウマチ
<身体所見>
血圧,脈拍に問題なし、体温37.3度
顔面浮腫なし、甲状腺腫なし
胸部、腹部には診察上問題なし、皮疹あり
下肢に浮腫なし、両肘〜前腕部の対称性の浮腫と熱感あり、
<検査所見>
WBC正常、CRP陰性、PCT陰性、ESR25mm/h
抗核抗体陰性、RFは18と軽度上昇、AST 80、ALT 50、LDH 300、ALP 750、CPK 600
甲状腺機能:正常
<心エコー>正常、<胸部レントゲン>軽度の心拡大
<鑑別診断>
感染性疾患、薬剤性、自己免疫疾患などを鑑別疾患に考えていた。CPKが軽度上昇しているのは?だが、高齢発症,自己抗体が陰性、急性発症の左右対称性の浮腫があることから、RS3PE症候群を疑った。数回の経過観察後、経口ステロイドの投与を開始した。その後,浮腫は徐々に改善したものの、胸部、顔面の掻痒感、全身倦怠感(脱力感)のため動けなくなったため、初診から約1ヶ月後、精査目的に入院となった。
(顕性化してきた皮疹、今回の症例のものではありません)
この疾患は何でしょう?
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<診断>
皮膚筋炎
担当の研修医が皮疹を見るなり”皮膚筋炎”なのではという意見で、皮膚科をコンサルトしたところ頸部は皮膚筋炎に特徴的なVネックサインということが判明しました。神経内科で近位筋の筋力低下、針筋電図でも筋原性変化、MRIで筋肉の炎症性変化を認め、CPKの上昇と合わせて皮膚筋炎と確定診断しました。初めに膠原病専門医が皮疹と血液検査データをみていたら、もっと早い段階で診断できた可能性があります。今回は優秀な研修医に助けられました。
まだ診断がついていない時点で、放射線科の先生が胸部CTで通常とやや違う間質性肺炎を認めるとコメントされていました。さすができる放射線科医は違う!
この症例の反省点は,①高齢で抗核抗体が陰性であり、RS3PE症候群以外の膠原病はないだろという考え,②CPKの軽度の上昇や皮疹というキーワードが抜けていた、③皮膚筋炎の皮疹を診たことがなかった、④急速に進行するという事を知らなかった、という所です。以下に大事な疫学を記載します。
<疫学>
- 日本の年間発病率は5~10人/100万人、有病率は2~5人/10万人程度で、成人では1:2の割合で女性に多い。あらゆる年齢層に発症するが、小児期(5~14歳)と成人期(35~64歳)にピークを持つ2峰性分布を示す。
- 多発性筋炎の進行速度は患者によって非常に不均一で、年余にわたって診断されずに生活される症例、週単位で体重減少(筋量低下)、歩行不能、嚥下障害(誤嚥・窒息の危険)、換気障害に至る例もある。しかし、基本的に急性発症はしない。
- 間質性肺炎が30~60%に出現する。
- 特徴的な皮膚所見(へリオトロープ疹、ゴットロン徴候、V字ネック型紅斑、項部から両肩に広がる紅斑など)
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