2014/06/06

上腕の腫脹と発赤、全身倦怠感を訴える60歳代の男性

高血圧症、脂質異常症の診断で近医通院中の60歳代の男性
受診前日から突然右腕の腫脹を自覚し徐々に増悪した。発熱、全身倦怠感もあるため内科を受診した。

<アレルギー歴>なし
<内服薬>降圧薬(Ca拮抗薬)、スタチンなど

<身体所見>
血圧80/50mmHg(普段は130mmHg程度),脈拍100bpm、体温37.5度、呼吸数は25回
右手背から上腕にかけて、発赤、高度の腫脹があり、自発痛が強い

<検査所見>

WBC 6000、CRP 22、Plts 25万、凝固異常なし、PCT>10、
BUN 40、Cr 3、AST 20、ALT 20、CPK 150、T-Bil 2.5
(1年前の血液検査ではは肝・腎機能異常なし)

<問題点>

1 皮膚の発疹
2 血圧低下(ショック状態)
3 炎症反応の上昇
4 腎機能障害
5 総ビリルビンの上昇

この疾患は何でしょう
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<診断>

劇症型溶血性レンサ球菌感染症による壊死性筋膜炎と毒素性ショック症候群

急速進行性であり早急に外科コンサルト!(時間の遅れは致命的)

<臨床像>

壊死性筋膜炎の三徴は、①局所の変化に対して痛みが異常に強い、②進行が早い、③皮膚が非常に湿潤している、だそうです。本例も急速(24時間以内)に症状が進行していることから、壊死性筋膜炎と診断しました。早期に壊死性筋膜炎と単純な蜂巣炎を臨床的に区別することは難しく、この疾患を疑えば、すぐに外科をコンサルトして、病変部分の切開,皮下組織、筋膜、筋肉の観察と培養が必要です。画像診断のために、外科へのコンサルトが遅れてはダメです。本例では皮膚と血液培養でA群溶血性レンサ球菌が検出されました。

皮膚科の先生曰く、水疱を伴っているものはやばいのだそうです。

劇症型溶血性レンサ球菌感染症
 疫学
  1. 劇症型溶血性レンサ球菌感染症は1987年に米国で最初に報告され、その後、ヨーロッパやアジアからも報告されている。日本における最初の典型的な症例は1992年に報告されており、現在までに200人を超える患者が確認されている。そして、このうち約30%が死亡しており、きわめて致死率の高い感染症である。劇症型溶血性レンサ球菌感染症は子供から大人まで広範囲の年齢層に発症するが、特に30歳以上の大人に多いのがひとつの特徴である(IDWR 2002年40, 41号参照)。
  2. 初発症状は咽頭痛、発熱、消化管症状(食欲不振、吐き気、嘔吐、下痢)、全身倦怠感、低血圧などの敗血症症状、筋痛などであるが、明らかな前駆症状がない場合もある。後発症状としては軟部組織病変、循環不全、呼吸不全、血液凝固異常(DIC)、肝腎症状など多臓器不全を来し、日常生活を営む状態から24時間以内に多臓器不全が完結する程度の進行を示す。A群レンサ球菌等による軟部組織炎、壊死性筋膜炎、上気道炎・肺炎、産褥熱は現在でも致命的となりうる疾患である。
  3. 溶血性レンサ球菌感染症 2006年4月~2011年

(A群
溶血性レンサ球菌による軟部組織感染症)
 臨床像
  病原性が強く,わずかな皮膚障害から感染、侵入門戸が不明な場合が多い
  急激に臨床像が悪化する
  見た目から想像できない程強い圧痛、SIRS、CKの上昇、多臓器不全を来す
  ガス産生はなし

 治療

  ICUで支持療法
  大量輸液
  局所のデブリードマン
  ペニシリン400万単位を4時間毎とクリンダマイシン600mgを8時間毎  
  免疫グロブリンの投与

A群溶血性レンサ球菌の毒素性ショック症候群の定義)
1 A群溶血性レンサ球菌が分離され,他のショックの原因が考えられない
2 臨床状態
  1. 収縮期血圧90mmHg以下かつ
  2. 以下の2つ以上が当てはまる
    1. 腎不全(血清Crが2以上)、慢性腎不全では、もともとのCrの2倍
    2. 凝固異常やDIC
    3. 肝障害(AST、ALT、T-Bilの上昇)
    4. ARDS
    5. 全身の紅斑様皮疹
    6. 軟部組織の壊死(壊死性筋膜炎、筋炎、あるいは壊疽を含む)

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